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それぞれの立場で、それぞれの感じ方がある / 映画「アメリカンスナイパー」の感想など

投稿時間2015.02.27シェア数3

あなたは誰だろうか。

戦争に出かけた夫か、彼を待つ妻か。

死にゆく友人かもしれないし、彼らを弔う愛国者たちかもしれない。

それぞれの立場で、それぞれの姿を自分に重ねて共感できる映画「アメリカンスナイパー」を観てきました。

戦争映画が苦手な人でも観られる戦争映画です。

132分と長尺ですが、テンポがよく、最後までまったく飽きのこない作品でした。

仕事と男と、替えの効かない場所

繰り返しますが、この作品は米軍史上最強とうたわれた「レジェント」ことクリス・カイル氏の自伝をもとに、彼の人生を描いた戦争映画です。

米海軍特殊部隊ネイビー・シールズの隊員として、イラク戦争の際に大活躍した戦場のクリス・カイル。そして、アメリカで家族とともに静かに過ごすクリス・カイル。

繰り返す2つの日常を彼がどう生きたのか、をそとても丁寧に描いた素晴らしい作品でした。

戦場から帰っても頭の中が戦争のことでいっぱいなクリス・カイルの姿は、軍人でないただの会社員でも共感できると思います。

家に帰っても仕事のことで頭がいっぱいだから、会話は上の空。子供の面倒もろくに見ず、妻には「体は戦場(会社)から帰ってきたけど、心が帰ってきてない」なんて言われてしまいます。

それでも「国を守るっていう大義があるんだ」と言い放ち、何度も戦場へと舞い戻る彼の背中には、昔ながらの"働く男"が重なります。それが良いとか悪いとかの判断は人によって別れると思いますが、共感する方は多いのではないでしょうか。

個人的には「体は戦場(会社)から帰ってきたけど、心が帰ってきてない」のセリフにはグッときました。

ぼくのように自宅で仕事をしていると、心をどこに帰したらいいか分からなくなってくるのです。そこが職場であり、家族と過ごす場所です。ずっとオンとオフの間を彷徨っているから、きっと妻には迷惑をかけているんだろうなと想像して、申し訳ない気持ちになってしまいました……。

アニメ映画「クレヨンしんちゃん バカうまっ!B級グルメサバイバル!!」で主人公しんのすけの父親である野原ひろしが放った「仕事は頼めるけど、"オヤジ"は頼めないからな」という言葉が思い出されます。

クリス・カイル氏は「レジェンド」と呼ばれるほどの凄腕スナイパーでしたが、通常の任務の中で替えの効かない人材ではなかったように思います。実際、引退後に戦場の様子が大きく変わるような描写はなかったですし。

もっと自分でなければ意味のない場所と、それを提供してくれる相手を大切にしなければいけないなと思いました。

女性はどう観る

男性向けの映画な気もするかと思いますが、女性が観ても共感できるポイントがあると思います。

夫を待つ妻の視点や、子に先立たれた母親、「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ」的な男の恋人などなど、気持ちを重ねられるキャラクターが多く登場します。

実際のところぼくは女性ではないので推測でしかないのですけど、退屈はしないんじゃないでしょうか。たぶん。きっと。

戦争と重なる日常は、けっこう「あるある」

主人公のクリス・カイルは、戦場と日常の繰り返しのなかで心が病んでしまいます。

普通ではありえないような無茶な運転をしたり、じゃれる犬を殴ろうとしたり、電動ドライバーの音に敏感になったりと、日常生活に戦場での情景が重なってしまい、2つの世界をうまく切り替えられなくなってしまうのです。

一方では人間を大量に殺し、一方では良き父、良き夫であろうとする……。人を憎み命を断つという行為に対して一切疑問を抱いてないような振る舞いをしながらも、心は着実に蝕まれていってしまいま

この2つの現実が重なってしまう感覚って、実はけっこう「あるある」なんじゃないかなと思いました。ゲームをよくプレイする方なら分かってもらえると思います。

例えば、よく聞くのはオンラインゲームの話。「FINAL FANTASY XI」にハマりすぎて、すれ違う人の頭上にキャラクター名が表示されて見えたとか、ペットショップでウサギを見つけて「あいつ狩ったら経験値35くらいかな。毛皮集めて革細工のスキル上げたい」などと想像してしまうとか……。

ただこれは現実とは別の世界で頭がいっぱいになっているだけで、かなり危ない奴だと思われそうですが、そこまで深刻なものではありません!

しかし、戦争は別です。日常生活と戦場という対となる2つの世界はどちらも現実で、受け入れなければならない事実なのです。

「レジェンド」と言われるほど人を殺した現実と、良き父であろうとする現実。絶対に交わるはずのない2つの世界を重ね、受け入れなければならない苦悩は、ゲームにハマっただけのぼくとは比べ物にならないでしょう!

結局、クリス・カイルはその2つの世界にある矛盾を乗り越え、さらにその矛盾に押しつぶされてしまうわけですが、その姿はぜひ劇場で鑑賞していただきたいと思います。

戦争とか政治とか

戦争、政治、侵略、殺戮、正義、といったキーワードで観ることもできると思いますが、ぼくにはちょっと遠い世界に感じてしまいます。

そんなぼくでも、ぼくの近くの世界に落としこんで、共感したり、反感を持ったりできる映画だと思いました。それくらい丁寧。超丁寧。

敷居は高くありません。すごく分かりやすい作品です。

上に貼り付けた予告動画を見てピンときた方は、ぜひ劇場へどうぞ。