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映画版だけにある救い「ヒメアノ~ル」

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ぼくは古谷実の作品が好きだ。こんなことあったら嫌だなって思うような物語が詰まっているから。心地よくない非日常になぜかゾクゾクしてしまう。嫌な話が心に残す爪痕は強烈だ。ぼくたちの脳内には、無意識に他人の不幸を喜んでしまう回路が存在しているらしい。妬みを癒やす蜜の味。他人の不幸は快楽だ。しかし、古谷実の嫌な話はそれとも少し違う感覚にしてくれる。死の瞬間にセックス以上の快楽物質が分泌されるっていうから、もしかしたらそれと似てるのかもしれない。死が身近なものであると突きつけるような物語から、自らの心を守るための脳内麻薬。そんなものがあるんだろうか。おかしい奴だと思われたくないので言い訳をたくさん書いたけど、つまるところ、ぼくは嫌な話が大好きなのだ。そんな古谷実が世に放った嫌な話シリーズのうちのひとつ「ヒメアノ~ル」が映画化されたので観てきた。面白かったよ。

どんな話なのか

平凡な毎日に焦りつつビル清掃のパートとして働く岡田は、職場の先輩・安藤から、彼が密かに思いを寄せるカフェ店員のユカとの恋のキューピッド役を頼まれる。岡田がカフェへ足を運ぶと、そこには高校時代の同級生・森田が。ユカから森田によるストーキングに悩まされていると相談された岡田は、森田がかつていじめられていたことを思い出す……。

前半はハートフルピュアラブコメディ、後半はスプラッタサスペンス。温度差がすごい物語。

面白かったところ

いくつかあるので、少しだけ分けて。

スプラッタ表現、前後半の落差、すばらしい演技のみっつ。

スプラッタ表現

スプラッタ表現が素晴らしかった。ZQN映画「アイアムアヒーロー」と同じ藤原カクセイ氏が特殊メイクを担当しているということで、そのグロテスクな表現たるや極まった感じがすごい。

演出もよくて、傷つける人と傷つけられる人がすごくリアルに動いていた。ぼくはそういった現場に立ち会ったことがないから分からないんだけど、きっとこういう風なんだろうなって思えるくらいリアル。すげー怖くて痛そうで、目を覆いたくなるような映像が作られていた。

とはいえ、あまりそのグロテスクさを強調していないというか、必要だったから描かれていたんだなとも思える絶妙な熱量だったのが良かった。

前後半の落差

前半のラブコメの感じから一点してサスペンスな空気に変わるあのタイトルの出し方はずるい。音楽も相まってめちゃくちゃかっこいい。そしてすごく怖い。

あのシーンだけ特別映像としてYouTubeで公開してほしいくらい。何回も見れる。

すばらしい演技

森田剛さんの演技が怖い。

彼は昔「ランチの女王」っていうドラマでめちゃくちゃ暴力的な男の役をやっていたことがあって、ぼくはその印象が強かったので基本的に違和感はなかった。

ただ、普通を装っているような様子とか、世間の最底辺を自称した全て諦めたような物言いだとか、言葉の発し方がいちいち気味悪くて魅力的だった。ああいう人って居る。ぜったい関わりたくないタイプ。

すごく自然に"普通"な濱田岳さんとムロツヨシさんの掛け合いは、原作の岡田&安藤よりも笑えた。ユカのイメージはだいぶ変わって小悪魔美少女な感じだった(監督がクソロリコン野郎だから変わったらしい)けど、さすが佐津川愛美さんすげぇと思わせるエロさ&かわいさで、うん、すごく良いです……!

あと地味だけど山田真歩さんの殴られっぷりも良かったなぁ。

好きなシーン

  • 山田真歩さんを棒でぶっ叩いてるシーン
  • 岡田とユカのイチャイチャ
  • カレーを食う森田
  • 絶交したのにエレベーターが来ない安藤
  • 岡田が告白されているのを目撃した安藤
  • 股間を撃たれた安藤

感じたこと

森田の話をするよ。

映画版と原作では、ちょっとだけ森田の"かわいそう"なポイントが異なる。

原作の森田は自分がイカれているという事実に怯えつつも、あらがえない衝動として人を殺めることしかできない、ある意味では運の悪い、不幸で自分勝手な男だった。

共有することのできない価値観だから絶対に誰にも赦されることはない孤独。だから"かわいそう"だったのだ。

でも映画版の森田は生まれ持ってイカれていたわけではなかった。高校時代の"いじめ"によって心が歪み、殺人鬼になってしまうっていう流れ。その外的要因に対して同情する感じ。

どちらもモンスターに変わりはないんだけど、ぼくは原作の森田の方がまだ共感できる。映画版の森田は怖い。誰でもああなってしまう可能性があるっていう証明みたいで気持ちが悪いのだ。

この"誰でもああなってしまう"の呪いは映画全体にかけられている。ぼくらが森田の被害者にも、森田自身にも、森田をいじめていた奴にだってなってしまうかもしれないなとリアルに想像させる。

ただ、映画版にはいびつな救いがある。

ラストシーンで森田が"壊れている"ことが強く描かれるのだ。理解できないものってすごく怖いけど、壊れちゃってるなら理解する必要がない。"イレギュラー"で片付けられるもんね。

泣けるっていう感想を見ることが多かったラストシーンだけど、あれはぼくにとって泣けるシーンじゃなかった。むしろ安心した。あれが監督の優しさだとしたら、とても異質なものだと思う。

こんな時に観たい

辛い時、孤独な時、エロい佐津川愛美を見たい時。

あと原作もぜひ!面白いよ!!

[ama asin="B018QCSY06" name="ヒメアノ~ル 1" star="5.0"]