ナノカモ

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Twitterアカウントハンサムクロジ

ビデオ撮ったりブログ書いたりしながら、できるだけ、心だけでも、子どものままでいたいなと思う日々を送ってる。

このブログは、そんなハンサムクロジ(変な名前でごめん)が色々なものを見て、聞いて、触って「こうなのかも」「ああなのかも」と思ったことを綴るものだよ。

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ツーブロックphoto credit: 55Laney69 via photopin cc

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「いつも…その恰好を?」

むつかしい顔をしてしきりに道を歩く人達を観察している彼に、俺は声をかけた。彼は答える。

「当たり前でしょう。これが制服なんですから」

"せいふく"とはなんだろうか。今日のように蒸し暑い日であっても、黒いベルトのまとわりついた青い背広を着なければならないのだろうか。ふくよかな体型の彼を見ていると、そのうち美味しく蒸しあがってしまうのではないかと余計な心配をしてしまう。

「暑くないのですか」

「暑いに決まってるでしょ。バカにしてんの?」

もちろんバカにしている。暑いなら脱げばいいのだ。もう少し薄手の布で体を覆えば涼しかろうに、なぜそのような恰好をしているのか見当がつかない。しかし彼は続ける。

「こっちも仕事なの。わかるでしょ? いろいろ大変なんだから用も無いのに話しかけないでよ。ところで君どこの人? 身分証、ある?」

"みぶんしょう"とはなんだろうか。あぁ、俺がどこの誰かを証明するためのものだった。でも俺はそれを持っていない。いつから持っていないのかもわからない。ただ、できればそれを手に入れたいと思っていた。

「身分証ですか。ちょうど俺も探していたところです」

「はぁ?」

「記憶を失くしてしまったんです。さっぱり何も覚えていない。気づいたらあそこの交差点に立っていました。何も持たず、どこに行ったらいいかも分からないんです」

そう、俺はたぶん、おそらく、記憶喪失になっている。彼にそれを打ち明けた。もしかしたら記憶を取り戻してくれるかもしれない。この青い服は、そういった"役割"を意味していたような気がする。

「はぁ? ふざけてるの?」

ふざけてなどいない。

「ふざけてるでしょ。警察なめてんの?」

なめてない。むしろ助けてほしいのだ。バカにしてはいたが、絶対になめてなどいない。俺は懇願した。

「いえ、失礼なことを言ってしまったのならお詫びします。ただ助けてほしいんです。記憶を失くして困っているんです」

必死に訴えたにも関わらず、彼は相変わらず憮然としている。

「……あのー、じゃあ病院いこうね。さっき立ってた交差点あるでしょ。そこ右に曲がると大学病院だから。いってらっしゃい」

さすが青い服の人である。なんと優しいことか!

「ありがとうございます! "だいがくびょういん"に行けば俺が誰だか分かるのですね」

彼は「大きくて白い建物だよ」と付け足した。俺は礼を言うと元来た道を引き返しはじめる。暑い。暑いがそれでも歩みを止める気は起きなかった。漠然とした不安が背中を押していた。

歩く、歩く、歩く。すると色黒で胸をはだけた男性がレモンサワーを片手に歩いてくるのが見えた。その時俺は何を思ったのだろう。彼にこう聞いていた。

「いつも…その恰好を?」

「当たり前でしょう。僕はダンスヴォーカルグループの一員なんだから」

なるほど。またしばらく進むと、黒いタートルネックにデニムパンツ、丸メガネをかけた男性が歩いてくるのが見えた。俺はまた聞く。

「いつも…その恰好を?」

「当たり前でしょう。僕はスティーブ・ジョブズなんだから」

なるほど。またしばらく進むと、綺麗な黒色の前髪を両サイドだけ伸ばした、まるで触覚のような髪型の女性が歩いてくるのが見えた。俺はまた聞く。

「いつも…その恰好を?」

「当たり前でしょう。私はアイドルなんだから」

なるほど。この世界ではみなそれぞれ"役割"を持って生きているのだ。違和感のあるその恰好は、それを表すシンボルであり、俺はそれを失くしたから記憶が消えてしまったに違いないのだ。

記憶喪失の原因が分かって安心した俺は交差点を右に曲がる。そろそろ白くて大きい建物に着こうという時に、その建物の前にそびえる大きな門から、黒縁眼鏡をかけた男性が歩いてくるのが見えた。

彼の髪型は頭頂部から耳の少し上までは長く、そこから下は刈り上げられており、上半身にはチェックの赤いシャツ。チノパンと革靴を履いていた。俺は聞いた。

「いつも…その恰好を?」

「当たり前でしょう。僕は大学生なんだから」

なるほど。彼をあとにして"だいがくびょういん"の前に立つ。大きな自動ドアのガラスには俺の姿が映っていた。

「いつも…この恰好を」

合点がいった僕は大学病の院隣にある大学キャンパスに吸い込まれていく。忘れ物を取りに行かなければ。交差点の向こう、遠くで陽炎が揺れた。

ショートショート書いた

ショートショートって「新鮮なアイディア・完全なプロット・意外な結末」が揃ってないといけないって話もありますが、そういうんじゃない文章です。思いつきショートショート。おもーとおもーとです。

先日夫婦でお会いした@sta7ka氏が書いたものに触発されて書きました。みんな書いているみたい!!

というか小説ってほんと難しいですよね。楽しいけど大変だ!

たまに頭を使って文章を書かないといかんなという思いもあって乗っからさせて頂きました。あとで読み返して汗顔するような黒歴史にならないことを願って公開いたしますw